『月刊ケアマネジメント』(環境新聞社)で連載している〈4つの視点から考える 幸せのためのヒント〉。
10月号では、自閉症のアーティスト・佐々木卓也さんの母、睦子さんに伺った話を紹介しています。
言葉でのコミュニケーションが難しい卓也さんとの日常生活、卓也さんの内面にあるものをどう引き出しているのか、成長や変化について。
卓也さんの絵は、複数のレストランやカフェに展示されています。
力強い線と鮮やかな色、動物が身を寄せ合うようにくっついている構図が特徴的です。
「彼の心のなかを覗きたい。人としてどんなことを考えて生きているのか知りたい」
3歳で自閉症と診断された卓也さんを育てながら、そんな想いを募らせていた睦子さん。
卓也さんが粘土細工や絵を描くことに夢中になっているのを見て、表現されたものから何かが見えてくるかもしれないと思い、絵画教室や陶芸教室に通わせたそうです。
すると、その作品が一流の芸術家や美術愛好家から注目されるようになり、卓也さんは二十歳のとき、本格的にアーティストとして活動を始めました。今から28年前のことです。
睦子さん、卓也さんと時間を共にして感じたのは、二人は仕事においても私生活においても、“パートナー”なのだということ。
“アーティストとマネージャー”のような関係であり、家事や家族の介護を協力し合って生活する親子でもある。
睦子さんの夫は、13年前に脳梗塞で倒れてから左半身麻痺となり、昨年は下咽頭がんの手術を受け、声を出すことができない状況。
そんななか卓也さんは、介護を手伝ってくれる頼もしい存在なのだそう。
睦子さんは、言います。
「卓也が一緒じゃないと、大変なんです。手伝ってくれるの、力があるから。夫を車に乗せたり、夫が乗る車いすを押してくれたり。心強いですよ。家でも、夫が転んだときに起こしてくれます。夜中でも、私が『たくちゃん、来て!』と呼ぶと、すぐに夫を起こしに来てくれるんです」
それから、家事について。
「一人でも生活していけるようになってほしい」という想いから、睦子さんは家事全般を卓也さんに任せています。
お昼に卓也さんがつくってくれたチャーハンを3人でいただいているとき、睦子さんが「うん、ちょうどいい味」とつぶやき、
「さっき、お塩をパラパラッて適当に加えてましたよね、目分量で。それって、障害の特性から“少々”とか“大体”っていう加減がよくわからない彼からすると、大きな進歩なんですよ」
と、感慨深げに話していたの印象深いです。
そして、卓也さんのアーティストとしての顔について。
個展があるときは、締め切りに間に合わせるために一生懸命に、たくさん描く。
「こんなふうにしてみたら?」と投げかけると、期待に応えてくれる。
作品を介したやりとりから、
「感情のままに描いているんじゃなくて、彼なりの考えがあって描いているということが見えてきた」
そうです。
「ここ数年のことですよ、『わかってたんだ!』とハッとさせられる瞬間が増えて、かなりコミュニケーションを取れるようになったのは。彼には、まだまだ伸びしろがあるってことですね」
と、睦子さんは教えてくれました。興味深いです。
お忙しいなか時間をつくってくださった、睦子さんと卓也さんに感謝。
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