【幸せのためのヒントFile30:絵を通して心のなかを知る~自閉症のアーティストと母の歩み~】

『月刊ケアマネジメント』(環境新聞社)で連載している〈4つの視点から考える 幸せのためのヒント〉。

10月号では、自閉症のアーティスト・佐々木卓也さんの母、睦子さんに伺った話を紹介しています。

言葉でのコミュニケーションが難しい卓也さんとの日常生活、卓也さんの内面にあるものをどう引き出しているのか、成長や変化について。


卓也さんの絵は、複数のレストランやカフェに展示されています。

力強い線と鮮やかな色、動物が身を寄せ合うようにくっついている構図が特徴的です。



「彼の心のなかを覗きたい。人としてどんなことを考えて生きているのか知りたい」


3歳で自閉症と診断された卓也さんを育てながら、そんな想いを募らせていた睦子さん。

卓也さんが粘土細工や絵を描くことに夢中になっているのを見て、表現されたものから何かが見えてくるかもしれないと思い、絵画教室や陶芸教室に通わせたそうです。


すると、その作品が一流の芸術家や美術愛好家から注目されるようになり、卓也さんは二十歳のとき、本格的にアーティストとして活動を始めました。今から28年前のことです。



睦子さん、卓也さんと時間を共にして感じたのは、二人は仕事においても私生活においても、“パートナー”なのだということ。

“アーティストとマネージャー”のような関係であり、家事や家族の介護を協力し合って生活する親子でもある。


睦子さんの夫は、13年前に脳梗塞で倒れてから左半身麻痺となり、昨年は下咽頭がんの手術を受け、声を出すことができない状況。

そんななか卓也さんは、介護を手伝ってくれる頼もしい存在なのだそう。


睦子さんは、言います。

「卓也が一緒じゃないと、大変なんです。手伝ってくれるの、力があるから。夫を車に乗せたり、夫が乗る車いすを押してくれたり。心強いですよ。家でも、夫が転んだときに起こしてくれます。夜中でも、私が『たくちゃん、来て!』と呼ぶと、すぐに夫を起こしに来てくれるんです」


それから、家事について。

「一人でも生活していけるようになってほしい」という想いから、睦子さんは家事全般を卓也さんに任せています。


お昼に卓也さんがつくってくれたチャーハンを3人でいただいているとき、睦子さんが「うん、ちょうどいい味」とつぶやき、

「さっき、お塩をパラパラッて適当に加えてましたよね、目分量で。それって、障害の特性から“少々”とか“大体”っていう加減がよくわからない彼からすると、大きな進歩なんですよ」

と、感慨深げに話していたの印象深いです。


そして、卓也さんのアーティストとしての顔について。

個展があるときは、締め切りに間に合わせるために一生懸命に、たくさん描く。

「こんなふうにしてみたら?」と投げかけると、期待に応えてくれる。


作品を介したやりとりから、

「感情のままに描いているんじゃなくて、彼なりの考えがあって描いているということが見えてきた」

そうです。


「ここ数年のことですよ、『わかってたんだ!』とハッとさせられる瞬間が増えて、かなりコミュニケーションを取れるようになったのは。彼には、まだまだ伸びしろがあるってことですね」

と、睦子さんは教えてくれました。興味深いです。


お忙しいなか時間をつくってくださった、睦子さんと卓也さんに感謝。