『月刊ケアマネジメント』(環境新聞社)で連載している「4つの視点から考える 幸せのためのヒント」。
2024年1月号では、福祉作業所での創作活動や商品企画に携わるデザイナー、林よしえさんの活動について紹介しています。
最近よく思うのですが、あらたまって話を伺うよりも、その方が活動している様子を見ているほうが説得力があり、得るものが大きい気がします。
そして、「特に何をしているわけではないんですよ」とサラッと言う人ほど、本当に大切なことを知っていたりします。
林さんからも、そんなことを感じました。
林さんは、障害者支援サービスを行う通所施設、小茂根福祉園(東京・板橋区)が利用者さんのために設けている「アトリエの時間」で、絵画講師をしています。
「2010年からなので、13年くらい経ちます。特に何かを教えているわけでもなく、楽しい時間を過ごしてもらえたらと思って続けてきた感じです」
と話していた林さんの、肩に力が入っていない感じに引きつけられました。
それで実際に「アトリエの時間」にお邪魔してみると、林さんは室内を歩き回り、利用者さん一人ひとりにはきはきした口調で話しかけて、画材を渡したり「こうしてみる?」と提案したりしてフル稼働。
「この時間に創作されたものを、“アート”として昇華させたいとは思っていなくて。自分にはそれはできないから。ただ、“開放”の時間にしたい、利用者さんたちが、誰にも阻害されずに行動できる場所にしたいと考えています。それぞれが自分で選んで決定して行動する時間。『好きにしていいよ』っていう時間」
と聞いて、「アトリエの時間」が長年続けられてきた理由がわかった気がしました。
【宝探しをするように、心が躍るとき】
小茂根福祉園での、林さんのもう一つの顔。
それは、この施設が企画する商品のブランド「KOMONEST(コモネスト)」のデザイナーです。
「作品になりきれなかったものたちがいっぱいあって、逆にそのほうが面白いんです。落書き程度に描いたものとか。そこに転がっている“宝”がいっぱいあって、デザインを加えれば、商品として世の中に出せると思っていて」
と、林さん。
「アトリエの時間」などに利用者さんが描いた絵を素材として、トリミングしたり色を変えたり、自由に加工させてもらっているのだそう。
“デザイン事務所でイラストレーターとデザイナーが共作している感覚”なのだと話していました。
【「優しい人を増やす活動」とは?】
小茂根福祉園の商品づくりにかかわるようになった林さんは次第に、ここで商品をつくる意味や、自分自身の役割について考えるようになったと言います。
誰のために、何のために売るのかーー。
たどり着いた答えは、「地域の人たちに向けて商品を販売するとともに小茂根福祉園の想いも届けて、商品をきっかけに施設と利用者に興味をもってもらい、地域に支援者や理解者を増やすこと」でした。
林さん曰く、「優しい人を増やす活動」。
たとえば徒歩で通う利用者が行き帰りの途中、大きな声を出してしまったりパニックになってしまったとき、そこに小茂根福祉園や利用者のことを知っている人がいたら気にかけてくれるのでは。
そうあってほしいと、林さんは願っています。
そしてこの言葉が、とても印象に残りました。
「一人じゃ生きられないということを、障害のある人たちは身を以て知っている人たちです。実は誰だって一人では生きていけないんだけど、そのことに気づきにくいですよね。洋服だって道路だって、誰かがつくってくれているんだけど、誰かにやってもらっていることを感じられずに生きているから。でも、体を動かせなくなったとき、一人では生きていけないと実感するはずです。誰しもそうなる可能性があるから、自分がそうなったときに助けてもらえるように、『優しい人をたくさんつくっておかないと』って」
・
「アトリエの時間」を見学させてくださった、林さん、小茂根福祉園と利用者さんに感謝。
0コメント