【幸せのためのヒントFile44:みんなで安心感をつくり 一緒にリカバリーするということ ~心病む人の居場所をつくる「クッキングハウス会」のはなし②】

『月刊ケアマネジメント』(環境新聞社)で連載している「幸せのためのヒント」。

2月号は1月号に引き続き、精神疾患を抱える人たちの居場所を運営する、特定非営利活動法人クッキングハウス会の活動について紹介しています。


前号で紹介した“みんなでごはんをつくって一緒に食べる”活動と両輪で30年以上取り組んできた、「ソーシャルスキルズトレーニング;SST」(対人関係を円滑にし、社会生活のなかで生じる問題を解決するスキルを身につけるためのトレーニング)と、それにまつわる代表の松浦幸子さんの想いについて。


2回の取材全体を通して痛感しているのは、ここで取り組まれていることは、精神疾患を抱えている人たちだけのためにしておくのはもったいない、ということです。

そして、自分に欠けていることに向き合ういい機会にもなりました。


※前編 「一緒につくって、一緒に食べるということ~心病む人の居場所をつくる「クッキングハウス会」のはなし①」





心地よい人間関係のあり方を、心病む人たちが教えてくれる

「心病む人たちと接するなかで、その人のいまできているよいところを見つけて、心からほめると自信がついて、健康な面がひろがっていくということを、実践から実感していました。それを、何か理論づけてくれるものはないかなって探していたんですよね。そんなとき、SSTに出合いました」

と、松浦さん。

いまから35年前、米国で生まれたSSTが日本で紹介され始めたばかりの頃のことです。


メンバー(利用者)が参加するSSTに混ぜていただいて感じたのは、日常生活のなかで習慣的にこんな試みが行われているとは羨ましい、ということ。

それから、場のやさしさも。

心の痛みを知っている人たちがつくる場だからなのかもしれません。


このSSTでは、「先日こんなことあったけどうまく対処できなかった。みなさんならどうする?」といったように課題を持ち寄ってみんなで解決策を見いだし、ロールプレイで自信をつけます。

「相手のいいところを見つけてほめる」ということも、とてもいいと思いました。


松浦さんにとってメンバーは、共に学ぶ仲間なのだそう。

「心病む体験をした人たちが、心地のいい人間関係のあり方を教えてくれます。ここで出される課題は、誰にとっても起こりうる人間関係の困りごとだから」

と教えてくれました。



“みんなで、一緒に”、というマインド

SSTにせよ前号で紹介した食の力に着目した活動にせよ、クッキングハウス会の取り組みは“一緒に”“分かち合う”というムードに溢れています。

何かを強いることはなく、メンバーのペースが尊重されているなかで、「ひとりだけで食べようと思うものは持ってこない。みんなで分けで食べること」をルールにしているところが象徴的。



人生をかけて、心病む人たちに愛情を注ぎ続けてきた松浦さんの背景

今回、松浦さんにお話を伺いたいと強く思ったのは、著書に綴られた松浦さんの想いに非常に心を動かされたからでした。

涙が出そうなくらい胸が熱くなる話もあります。


たとえば、『不思議なレストラン』(1997/教育史料出版会)の「はじめに」冒頭に綴られた、“社会的入院”をする人たちに初めて会ったときの、この心境。

私は、新潟の山村で過ごした少女時代、暗い家族関係のなかで、なるべくしゃべらないように、なるべく楽しそうにしないように、なんにも感じないでぼんやりしているように、ポーズをとって生きていた。本来の私は明るくて正義感にあふれ、行動的な面がいっぱいあったが、そんな自分を発揮してはいけないのだと抑圧していた。そうすることでしか自分を守れなかったからだ。だから、心病んだ人たちのうつ向いた姿に隠れているたくさんの願いがせつないほどにわかる気がする。本当は人間らしく生きていたいのだ。でも、病気になったことからくる自信喪失感、社会的孤立感、受けとめてくれる人のいない淋しさからできないでいるだけなのだ。

施設が入っている建物の1階と2階を行き来しながら、メンバーや訪ねて来る人に対応したり電話や対面での相談に応じたりと、流れるように動いている松浦さんの姿が印象的でした。