『月刊ケアマネジメント』(環境新聞社)で連載している〈幸せのためのヒント〉。
2023年2月号では、ニューヨークでソーシャル・プラクティス(*1) の手法を学んだアーティスト、尾曽越理恵さんが取り組む「炊き出しアートプロジェクト」(*2) から見えてきたことについて紹介しています。
(*1)ソーシャル・プラクティス(ソーシャリー・エンゲイジド・アート)・・・アートを通じで社会を変えようとする実践的な活動。
(*2)炊き出しアートプロジェクト・・・特定非営利活動法人TENOHASHIの協力を得て、炊き出し会場にアートスペースを設け、自発的に集まって来る人たちの思いを表現してもらいそれを発表する活動と、尾曽越さんが開設したアートスタジオ大山(東京・板橋区)での活動を併せたアートプロジェクト。
昨年の10月22日、「炊き出しアートプロジェクト」の締めくくりとして開催された展覧会で、ペンネーム・路上太郎さんと鑑賞者がこんな会話をしていました。
【太郎さん(作者)】「負け組」っていうタイトルなんです。
【鑑賞者】 あ~、勝ち組、負け組ね。嫌な言葉よね。
【太郎さん】この絵は「負け組」がテーマです。自分の情けない横顔を描いてみました。この言葉、死語になりつつありますよね。でも、今の世の中は、勝ち組は負け組の犠牲によって成り立っているように感じます。だから、この言葉を思い出してもらいたいと思って。私、最近までホームレスだったんです。
【鑑賞者】 そうなんですね。でも今の日本って、セーフティーネットがないし、他人事じゃない。明日は我が身です。……って自覚している人は、どれくらいいるんでしょうかね。
「私はここにいる」というのが、この展覧会のテーマ。
会場に掲示されていた尾曽越さんのメッセージには、「この場に集まる人たちの消されがちな声(表現)を聞いていただきたくて…」と記されていました。
この日、3人の作者に話を聞くことができ、改めて「人は見た目だけではわからない」ということを感じました。
見た目の印象と絵に表現された内面とのギャップ、明るい色の服を着て楽しそうに見える人の「辛い、楽しくない」という言葉。
それと同時に、心模様が投影された絵を前にして、作者に話を聴くことの意義も感じました。この日、作品から投げ掛けられた“問い”は、今も余韻となって残っています。
東池袋公園での活動で、「彼らが求めているのは、いろんなことが言える場なんだ」と実感した尾曽越さんは2022年3月、常設のアートスペース「アートスタジオ大山」(東京・板橋区)を開設しています。
印象に残った言葉は、
▶︎自信がないですね。世の中の人たちはコンクリート建築や木造建築に見えますが、私なんか、砂の家です。いつ波に流されてしまうかわからないです。(路上太郎さん)
▶︎一人ひとりの声を社会に発表して、人々に考えてもらうこと。それが私のアートです。子どもでも大人でも、一人ひとりの想いや意見が尊重される社会にするために、これからも活動を続けていきます。(尾曽越さん)
尾曽越さんの活動もさることながら、そのバックグラウンドにも心を動かされました。
様々な経験を重ねて60歳のときにニューヨークに留学、70歳になってからソーシャル・プラクティスに出合い、前進し続けている。
そんな尾曽越さんが、とても輝いて見えました。
刺激をくださった尾曽越さんと、胸の内を語ってくださり、その内容を記事にすることをOKしてくださった路上太郎さんに感謝。
0コメント