【幸せのためのヒントFile23:誰もが一粒の大事な存在だということ ~ある不動産屋さんが取り組む“人づくり”~】

『月刊ケアマネジメント』(環境新聞社)で連載している〈幸せのためのヒント〉。

2023年3月号では、谷中・根津・千駄木エリア、通称“谷根千”で不動産業を営む、小松栄子さんに伺った話を紹介しています。

不動産再生事業を通じて取り組む“人づくり”、人によって街が“醸されていく”という話、小松さんの事業の根っこにあるものとそれが形成された背景、そして小松さんの生き方について。


福祉や介護の専門職と連携して、生活保護受給者や独り身の高齢者のための部屋を探して見守り続けたり、「店を開きたい」という人たちの相談に乗ったり。

小松さんがかかわる人や案件の幅は広く、難しいケースも「これはチャンス!」とばかりに引き受けて、知識や経験を糧にしてきたそうです。

「オリンピック選手になれとか、宇宙に行けと言われているわけじゃないから(笑)。調べれば必ずどこかに前例が転がっているはず」と思いながら。


よく「“街づくり”をする」と言われますが、小松さんは「“人づくり”をすることによって街が“できていく”」と考えています。

それは、“赤い砂粒のような点がいつの間にか寄せ集まっていて、赤い海岸として姿を現す”ようなイメージ。


そう聞くと、砂の一粒一粒、つまり一人ひとりがいかに貴重な存在なのかわかります。

【「自分一人の力なんて……」と考えてしまうのは、すごくもったいないことです。輝いていることが大事だとか発信力がなきゃいけないとか、そういう意味ではなくて。別に輝いていなくてもいいし。だけど、自分が社会のなかにある“一粒”だという自覚と、意志力をもっていることが大切だと思います。社会とのかかわりをもっている時点で、誰もが大事な存在なわけで。それは、会社員だって専業主婦だって、病気の人や障害のある人だって同じです。】

と、小松さんは言います。

そんな小松さんが、不動産再生事業を通して“人づくり”をしている場所の一つが、根津にあるkitchen haco.

元歯科だった築60年ほどの建物をリノベーションしてつくりました。

同じ想いをもつ仲間と新たに立ち上げた「株式会社Brew」(Brewとは“醸造する”“醸成する”という意味)で運営しています。


聞けば、リノベーションでも経営面でも想定外の壁に幾つもぶつかり、かなりの借金をしているそう。

ですが小松さんは、

「“Brew大学”に入学して、学んでいると思うことにしました」

と前向き。


こうやって、困難も笑いとユーモアでエネルギーに転換して乗り切っていくのが、小松さんなのです。

一粒の種が芽を出し葉をつけ、花を咲かせて、種をつくって……

といったように、小松さんがつくった場所で、出会いと経験を通して醸された一人ひとりが、そこを巣立ってほかの人たちを醸していき、じわじわと街が醸成されていく。

時間がかかることかもしれないけれど、だからこそ、簡単には消えないものになっていくのではないでしょうか。


現実をシビアに見ることと思い切ること。そのバランスが大事なのだと気づかせてくださった小松さんに感謝。