『月刊ケアマネジメント』(環境新聞社)で連載している「4つの視点から考える 幸せのためのヒント」。
5月号では、精神障害、発達障害、知的障害などがある人や、様々な事情により社会になじめない人たちを受け入れて心の回復を支援している、特定非営利活動法人さんわーく かぐやの理事長、藤田靖正さんに伺った話を紹介しています。
靖正さんが経験してきたことや大切にしていることを聞いてみると、さんわーく かぐやを支えている背骨のようなものが見えてきました。
傷つけられたり、癒やされたり
攻撃性が強く周囲の人を傷つけてしまう人や、全身にリストカットのある人などに日々接している靖正さんの話には、「死」という単語が頻繁に出てきます。
それほど死が身近にあるということで、そのぶん「生きる」ということが色濃くなるのかもしれません。
利用者に蹴られたり殴られたりしたことが何度もあり、警察を呼んだことも一度や二度ではないそうですが、
「でも僕は多分、かぐやで回復しているんだと思うんです。かぐやのメンバー(利用者)に傷つけられたりもするわけなんだけど、もう一方ではメンバーに慰められ、癒やされて、成立しているんだと思います」
と話していたのが印象的でした。
アートの意味について考え続ける
実は、靖正さんは木彫家でもあります。
10代の頃、自己肯定感が極度に下がり、苦悩を抱えていた時期がありました。
「僕はずっと死のうと思ってたから。いま生きていることは奇跡だと思っていて」
自分を救ってくれたのは「木彫」なのだと教えてくれました。
木彫の仕事に集中していた頃、作品一つが数十万、数百万円で次々に売れていくなかで、違和感を覚えたと言います。
「作品をお金に換えることを続けるのは、富裕層の人たちに作品を買ってもらうことを続けることなんだなと。アートって、お金に換わる以外の、もっとすごい力があるはずなのに」
と考えるようになって、ギャラリーで作品を売る生活からは遠ざかり、アートのあり方を模索し続けてきました。
暮らしの原点に戻ること。そのなかにアートを見いだす
いま靖正さんが考えるアートとは、大きな意味では「心を動かす物事」。
日々の暮らしにおいては、「自らの手で自然素材を実用性のあるものに変える」「無の状態から何かをつくりだす」活動のなかにも存在することなのだそう。
すでに自然のなかにあるもので、自分の手で生活の道具や食べる物をつくる。海水をひたすら煮詰めて塩までつくってしまう。
そうした、暮らしの原点に戻るようなかぐやの活動は、効率化や生産性向上を追う流れにある現代、お金で便利さや時間を手に入れているうちに、失っているものがあることに気づかせてくれます。
それは、遠回りや失敗から生まれる“副産物”だったり、体感することで鍛えられる勘だったり、ありふれた日常のなかに何かを発見する面白さだったり……。
靖正さんは2008年に母・慶子さんとさんわーく かぐやを立ち上げました。
その背景には、統合失調症の妹さんの存在が深くかかわっています。
慶子さんと妹さんの話については、
「つらいことの後には、いいことがあると信じて」(2023年11月号掲載)
で紹介しています。
0コメント