月刊ケアマネジメント』(環境新聞社)で連載している「幸せのためのヒント」。
2025年最初の1月号では、東京・調布市で精神疾患を抱える人たちの居場所を運営する、特定非営利活動法人クッキングハウス会の代表・松浦幸子さんにうかがった話を紹介しています。
運営する3つの居場所のうちの1つ「レストラン・クッキングハウス」を立ち上げた経緯や、活動の背景にあること、心の病を抱える人たちへの想いについて。
「おいしいね」から、元気になる場
おいしいものを食べると心がゆるみ、前向きになれる――。
松浦さんは、そうした食の力を使いながら、重い心の病を抱える人たちのリカバリーに、人生をかけて取り組んできました。
活動の源は、精神科病棟で“社会的入院”をする人たちに出会ったときに抱いた、「病気であってもなくても同じ人間なんだから、病院ではなくて、一緒にまちのなかで暮らせるようにしたい」という想い。
その実現のために、いまから38年前に始めたのが、「みんなで一緒にご飯をつくり、一緒に食べる」というンプルなこと。
以後、小さく丁寧に、ひたすらその活動を続け、多くの人たちを救ってきました。
いつ来てもよくて、リーダーがいない“職場”
レストラン・クッキングハウスは、まちの定食屋さんの顔をしていますが、実は障害福祉サービス事業所。就労継続支援 B型の活動の場です。
メンバーと呼ばれる利用者はみんな、深刻な精神疾患を抱えています。ここは彼らの職場であり、心を解放して過ごせる居場所であり、まちの人たちと交流できる場でもあるのです。
開店準備から見学させていただくと、リーダーらしき人がいないのに、滞りなく準備が進んでいました。
聞けば、スーパーフレックスタイム制で、メンバーはいつ来てもいいし、いつ帰ってもよくて、休むときに連絡する必要もないのだそう。
それでもちゃんと、客の足を運ばせているのがこの店のすごいところ。
定食をいただくと、その理由がよくわかります。
みんなで分け合って食べる場のあたたかさ
栄養たっぷりのものをつくっているんだけど、大事なことはそれだけじゃないんですよね」
と、松浦さんは言います。
その“大事なこと”は、松浦さんの食にまつわる体験のなかにあるようです。
敗戦後、深刻な食糧難により生活が困窮していた時代に、新潟の小さな村で生まれ育った松浦さん。そこで村の主婦たちは、姑や夫の顔色をうかがいながら、忍耐をもって必死に生きていたのだそう。
そんななか、公民館で開かれた料理教室で見た光景が、松浦さんの目に焼きついています。
村の主婦たちが晴れ晴れとした顔で、一緒につくったものを食べながら楽しそうにおしゃべりしている。
家では見たことのない、母ののびのびとした表情。
このとき、『“共同食堂”っていいな』と、フワッと思ったのだそう。
それともうひとつ、大人になり、働きながら夜間大学で学んでいた頃の思い出。
当時、松浦さんもまわりの学生もお金がなく、いつもお腹を空かせてたなかで、食べる物があるときは、お互いの部屋に招いてご馳走し合っていたのだそう。
松浦さんも、お母さまからお米が送られてくると、炊き込みご飯をつくって仲間と一緒に食べていたと言います。
そのときのことを松浦さんは、こう振り返っていました。
「油揚げとおしょうゆを入れただけなんですけど、とてもおいしかったんですよね。特別なものじゃなかったのに」
レストラン・クッキングハウスの上には、メンバーの夕食会のためにつくられた「クッキングスター」という場所も。ここは、いまでは“カルチャーセンター”のような、多様な役割をもつ場になっています。
2月号では、このクッキングスターで行われている、「みんなで安心感をつくり、みんなで一緒にリカバリーしていく」活動について紹介します。
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