『月刊ケアマネジメント』で連載している「幸せのためのヒント」。
9月号では、「紅茶の時間」を主宰する水野スウさんに伺ったお話を紹介しています。
「住みびらき」という言葉が生まれていなかった42年前から、自宅のリビングを週1回、“公共空間”にしています。
「毎週水曜日、午後1時から6時までひらいている、“ただの”喫茶店みたいなところなんですけど。『無料の』と『何気ない』の2つの意味をかけて“ただの”ということで。ちっとも流行ってませんけど(笑)」
と、スウさんは言います。
この“ただの”(何気ない)ということがとても大事で、だからこそ、ふと胸の内を口にする、本音が漏れ出てくるのです。
自分のためにひらいた、お金のいらない“喫茶店”
「紅茶の時間」は、スウさんが自分のために始めたことでした。
当時、金沢のまちなかにあるマンションに住んでいたスウさんは、子育てに不安と孤独を募らせ、「仲間が欲しい!」と思い、週に1回、自宅を開放しました。
その後、金沢から少し離れた津幡町の一軒家に家族で引っ越し。それに伴い“喫茶店”も移転。
すると、子育てママが子どもを連れて集う場が、仕事の途中や介護の合間に息抜きに過ごしていったり、小中学生が学校帰りに立ち寄ったりする、老若男女が集う場に変わっていったのでした。
スウさん曰く、ここは“出逢いのスクランブル交差点”です。
“気持ちの便秘” はとってもしんどい
あるときから、スウさんは自分の役割を、
「“紅茶おかわり入れ係”と、その人が話したければ“胸の内を聴く係”と、“その人のいいところを言葉にして伝える係”」
と心得えるようになったのだそう。
そして、こんなことを思いながら、集う人のこころ模様を観察しています。
「話したい想いを抱えてもって来た人が出せないまま帰るのって、かえってつらいことだと思うの。トイレに入って出かかったのに出ないっていうか(笑)。話したいことを話さないでいると、気持ちは便秘をするんです。“気持ちの便秘”ってどれだけしんどいか、苦しいか」
「お茶を飲んでいる時間に、その人の気持ちがひらかれたときには話せばいいし。その人が気持ちを出すときには、私は“透明なガラスのボウル”になれればいいんだなって。そこに水を張って話し手の気持ちを映して、その人がそれを見ながら気持ちを整理できたりするのが理想ですね」
「あのスケッチブックが、どれだけ私の気持ちの
吸い取り紙になってくれたことか」
スウさんは、人のこころの痛みを敏感に感じ取る人。
それは、スウさん自身も心に傷を負い、苦しさを感じていた経験があるからなのだと思います。
複雑な家庭環境のなかで少女時代を過ごしたスウさんは、胸の中にたまった怒りなどの気持ちを「月光荘」(銀座にある老舗の画材店)のスケッチブックに「鉛筆の芯が折れるほどの強さ」で吐き出していたと言います。
「あのスケッチブックが、どれだけ私の気持ちの吸い取り紙になってくれたことか」
というスウさんの言葉がとても印象深いです。
ちなみに、なぜ「月光荘」のスケッチブックかというと、スウさんは当時、月光荘に足しげく通っていたから。
初代店主・橋本兵藏氏のことを“月光荘おじちゃん”と慕っていて、胸の内を話すことで救われていたのだそう。
「いまから思えば、月光荘はまぎれもなく私の“居場所”だった」
と、スウさん。
「紅茶の時間」の源は、ここにあるのかもしれません。
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