『月刊ケアマネジメント』(環境新聞社)で連載している〈幸せのためのヒント〉。
10月号は、90年近くつづく歴史ある 寄宿生活塾 はじめ塾 (神奈川県小田原市)の、「台所・食卓・畑」を学びの場とする考え方について紹介しています。
お話を伺ったのは、三代目塾長の和田正宏さんと、奥さんの麻美さんです。
【“受け取りそびれて”しまった大事なことを取り戻す】
このところ、個人的にとても感じていることがあります。
それは、すでに大量生産、大量消費の社会になっていた1974年に生まれた自分は、祖父母の時代までつづいてきたものや、昔の人が暮らしのなかで体得してきた知恵の多くを“受け取りそびれて”しまったということです。
農作物を自分でつくる苦労も知らないし、モノが壊れたら真っ先に買い替えることを考えてしまう。
その“受け取りそびれた”もの、高度経済成長によって“抜け落ちてしまった”ものを拾い上げないと、この先「何を守り、何を変えいくのか」を決めるモノサシが持てないと感じています。
戦前・戦後の混乱期を経て今日まで時代に惑わされず、子どもたちの生きる力を育みつづけてきた「はじめ塾」に、その“抜け落ちてしまった”ものを取り戻すヒントがありました。
【手間ひまかけたものに日々ふれるという贅沢】
取材に伺った日、塾の子どもたちが育てた有機栽培の野菜でつくったお昼ごはんを、みなさんと一緒にいただきました。台所を取り仕切る麻美さんと、農作業で真っ黒に日焼けした子どもたちがつくってくれた食事です。
手間ひまかけて育てた野菜で、「美味しいものにしよう」という気持ちを入れてつくった料理を、手しごとの美しさが光るスリップウェアの器でいただく。
これが「はじめ塾」の日常で、本当の贅沢とはこういうことなんだなあと実感しました。
【「健康的」なだけではない何かがある】
場の雰囲気といい、いる人たちといい、「はじめ塾」で感じた気持ちよさはどこから来ているのか?
「健康的」ということだけではない、何かがある。
と、はじめ塾を訪れてからずっと考えていたのですが、その答えがわかった気がします。
それはきっと “品”とか“思いやり”なのではないかと思います。
伺ったお話のなかで印象に残った言葉は、
▶︎畑は“実感”のオンパレードなんですよ。太陽も、土も、風もあるし。自分で蒔いた種から芽が出て、成長していく様子を見守りながら、自然やいのちの大切さを“連続性をもって”実感できる。それが事実であると感じた途端に、人は自信をもてるのだと思います(正宏さん)
▶︎家事にかける手間ひまを“労力”だと考える人もいますが、それは“労力”ではなく、気持ちよく暮らすために必要なことだと思います(麻美さん)
“子どもたちと一緒に自分自身も成長していきたい”という想いに溢れる正宏さん、飾らず気取らず、朗らかな笑い声が印象的な麻美さん。
有意義な時間や気づきをいただき、ありがとうございました。
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