月刊ケアマネジメント』(環境新聞社)で連載している〈4つの視点から考える 幸せのためのヒント〉。
5月号では、2021年12月号掲載「血のつながりのない家族がつくる絆~ファミリーホーム『坂本家』のこと~」の続編として、このファミリーホームを引き継ぐことを決めた元里子、坂本歩(すすむ)さんに聞いた話を紹介しています。
社会的養護のもとで育った経験と現在の養育者としての経験、つまり支援される側とする側という両方の視点をもつ歩さんの胸の内や、受け入れている子どもたちとの生活について。
坂本家にお邪魔したのはお昼どき。
話をしながら一緒に食べようと思い買っていた惣菜パンを、歩さんは大きなお皿に見栄え良く盛り付け、トングを添えて出してくれました。
飲食店の店員のように、手慣れた様子で。
そのさりげない心配りに、歩さんの日常を垣間見た気がしました。
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1日のタイムスケジュールを聞くと、とにかく“子どもたちファースト”で、仕事とプライベートの境目がない。
お兄さんの顔、お母さんの顔、お父さん顔と、いろんな顔をもっています。
「たまには一人になって息抜きしたい」と思うこともあるものの、案外、この生活が自分に合っていると話していました。
小学生から高校生まで5人の子どもたちを受け入れていて(2023年3月31日現在)、そのうちの4人に知的障害があり、あとの1人は発達障害の一種、注意欠如・多動症(ADHD)。子どもたちの身じたくなどの準備を手伝うときは、「薬、歯ブラシ、水筒、体温表(コロナ禍は毎日体温チェックが必要)、着替え」と呪文のように言って、し忘れないように気をつけているのだそう。
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面白いと思ったのは、現在はファミリーホームを運営するパートナーでもある育ての親、洋子さんとの子育てに関する考え方の違い。
意見が分かれることがあるか聞いてみると、
▶︎ありますね。母は割と甘やかすタイプで、僕は厳しく接するタイプ。だから、 “飴と鞭”みたいな(笑)。甘やかされてばかりだと成長しないし。かといって、厳しすぎるのもダメだし。でも、世間知らずに育ってもらっても困るし……
▶︎いずれはこの家を出ていかなくてはならないので、それまでに少しでも、一人でできることを増やしてあげたいと思っていて。知的障害があるとはいえ、やればできそうなことは、がんばってできるようになってほしいんです
との答えが返ってきました。
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そんな歩さんが養子縁組をしてこのファミリーホームを引き継ぐことを決めたのは、「ただいま」と帰れる場所を残してあげたい」という想いからです。
▶︎もし母が病気になってしまったら、代わりができるのは僕しかいないのは明らかで。そんな状況を見て見ぬふりはできないと思って。ここにいる子どもたちにとって、「ただいま」と言える場所はこの家しかないんです。だから、この家の存在を消したくない、僕が残しておきたいと。ここを巣立っても、いつでも「ただいま」と帰れる場所として
歩さんと一緒にこのファミリーホームで育った“きょうだい”たちは、離れて暮らしていても、LINEで頻繁に連絡を取り合ってつながり続けていて、困ったときには助け合っています。
そして“きょうだい”たちにとって、このファミリーホームは“実家”のような存在。
記事には書いませんが、洋子さんから聞いて心を動かされた、坂本家を巣立ったヒロキさんとの話。
「ヒロキがこの家を出ていくとき、彼が私に『お母さんにしてもらったことはお母さんには返さないよ。これから出会う人に返していこうと思う。それでいい?』って言ったんです。だから、『もちろん、いいよ』って」
ヒロキさんは社会福祉士の資格を取り、長崎の離島・対馬でそれを実現しているようです。
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タイトなスケジュールの合間を縫ってお話を聞かせてくださった、歩さんと洋子さんに感謝 。
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